さまざまな調理方法で楽しめる、料理の可能性が広がる麺
東京の老舗ホテル「The Okura Tokyo」を代表するホテル直営の中国料理レストラン「桃花林」。ここでは中国の伝統技法と日本の四季を融合させた料理に「The Okura Tokyo」のサービススピリットで、長年に渡り国内外のお客様をお迎えしてきた。
「桃花林」がはしづめ製麺の麺を取り扱い始め約25年。長年取引きをしていた製麺会社が廃業して困っていたところ、メニューで使用していた麺を完全再現したのがはしづめ製麺だった。
それ以来、はしづめ製麺の商品づくりに一目を置いていると言う「桃花林」中国料理総料理長の陳 龍誠氏に、麺と麺料理について話を伺った。
テーラーの世界から料理人へ はしづめ製麺との出会い
―――どうして料理人を目指されたのでしょうか?
僕は1964年に華僑として日本に生まれました。日本の社会の中で生きていく上で、当時は職業の選択肢が少なかったんです。華僑の言葉で三把刀(さんばとう)ということわざがあります。「洋服屋のはさみ」「床屋の剃刀」「料理人の包丁」。“どれか一つを生業にすれば外国でも食べていける”という意味です。実家はテーラーだったんですが、僕は小さい頃喘息や埃アレルギーだったので、家業は諦めて料理の道に進もうと思いました。
偶然にも家業のお客様に当時のオークラの名誉会長がいらっしゃって、そのご縁もあってオークラに料理人として入社しました。そこから39年が経ちました。
―――どういうきっかけではしづめ製麺と出会ったのでしょうか?
いわゆる「ラーメン屋」は、麺が主体で麺自体に個性が求められるのですが、実は本来の中国料理は麺が主体ではなく、五目あんかけ焼きそばやジャージャー麺のように、お料理として麺を使うことが多いです。
世の中にはたくさんの製麺会社がありますが、麺を主体に考えている製麺会社がとても多いですね。
実は、以前は別の製麺会社と取引きをしていたのですが、廃業して取引きができなくなってしまったんです。製麺のレシピもわからず困っていたところ、はしづめ製麺さんがその麺をそのまま再現してくれたんですよ。それ以来、麺はもうずっとはしづめ製麺さんのみとのお付き合いです。
高い対応力と、二人三脚でのアップデート
―――麺を再現するには、製麺の技術力がないと難しそうですね。はしづめ製麺1社とのお付き合いにしている理由は他にもあるのでしょうか?
ホテルなので、宴会や立食パーティーがあると300〜500食ほどの大量の発注数量が必要になってきます。例えばラーメン店を主体に取引きしている製麺会社だと、急に500食をお願いしても引き受けられるところは思いつきませんが、はしづめ製麺さんは都内の会社ということもあり、前日に頼めば翌日には必ず届けてくれる。そういった対応力にとても助かっています。
また、宴会のような一度に大人数のお客様をおもてなしするする際でも、はしづめ製麺さんの麺は伸びにくく、最後まで美味しく食べられるのも良いですね。
お取引を初めて25年ほどですが、ずっと同じ方法でやっていくのではなく、麺も常に進化しています。例えば五目あんかけ焼きそばの場合、熱々の五目あんは麺のふたになってしまうんですね。そこで熱いあんがかかっても麺は伸びないようにして欲しいとか、コシを出して欲しいとか、何年か周期でリクエストしながら、今よりももっと麺料理が美味しくなるように色々相談し、改良してもらっています。この先もアップデートしながら、さらに美味しい麺料理を作っていきたいですね。
調理方法次第で、料理の可能性が広がる麺
―――実際、どんな料理に麺を使っているのでしょうか?
うちはつゆそば、焼きそば、夏季限定冷やし中華、ジャージャー麺など、幅広いメニューがありますが、同じ麺を使って、調理時間や手順を変えて調理しています。
例えば、焼きそばの場合は、つゆそばの3分の1ぐらいのボイル時間にして、冷ましてから焼いて使っています。逆に冷やし中華でしたら、少し長めにボイルして、冷水でしっかり締める。他にはジャージャー麺だと、常温の麺に熱いあんをかけて混ぜるのが本場中国の食べ方なので、冷やし中華ほど冷やさないように、ボイル時間も逆算して変えていますね。
同じ麺でも調理時間や手順を変えるだけで、料理のカラーが変えられるのも大事なことの一つ。
違う製麺会社の麺だと長めに茹でた時プチプチ切れることもあるんですが、はしづめ製麺さんの麺はそういうのは一切ないですね。ボイルしてから焼き揚げても切れずにちゃんと長いまま。パリパリに焼き揚がった麺が、食べるときはあんをすって少し柔らかくなり、美味しく召し上がれます。使いやすくてとても良いです。
―――麺を使いこなす技術力があるからこそだと思いますが、可能性も広がりますね。
麺料理ってお店の中で一番安い料理かといえばそうではなくて、例えばフカヒレのような高級食材にも合わせられて、調理法と味付けの掛け合わせで無限に広がっていくので、料理人にとっては調理しがいのある食材の一つですね。
スープと麺だけの贅沢な光麺と、60年間不動の人気の五目餡かけ焼きそば
―――陳料理長のおすすめの麺料理はなんでしょうか?
2つあって、1つはスープと麺だけの光麺(こうめん)です。フカヒレ料理を作る時に使う最高級のスープを使った、具材は何も入れないシンプルな麺料理なんですが、広東系特有のクリアなスープと麺の相性は抜群で、光麺のファンのお客様はすごく多いです。それだけを食べにくるお客様もいらっしゃいますし、シンプルだからこそ麺の味がわかる、ということなんでしょうね。
もう一つは五目あんかけ焼きそば。麺が綺麗な狐色になるように両面焼きにして、表面はパリパリのサクサク、あんで蒸された中はふんわり。これはもう60年間ずっと1位の人気メニューです。
―――どちらも愛されているメニューなんですね。
今70、80代ぐらいのお客様なんですが、昔初めて営業が取れた時に上司の人がご馳走してくれたのが五目あんかけ焼きそばで、それが忘れられなくて来られる方が本当にたくさんいらっしゃっいます。それもみなさん違う会社の方なんですよね。ご褒美として召し上がって、その味が忘れられなくてまたご来店いただくお客様は本当に多いです。
今の時代に合わせて、新しい定番を生み出す
―――これから挑戦したいことや、作ってみたい麺料理などありましたら教えてください。
麺料理ってもう出尽くした感がある中で、これから何か新しい麺料理をってなると、創作になってしまう。でも僕は創作料理はあまり好きではないんですよね。料理って原理原則があって生まれたと思っていますから。つまり、ストーリーとヒストリーがあって初めて、その定番料理っていうのが生まれているんですよ。その流れの中でいたずらにそれをねじ曲げてオリジナルというのは違うと思います。もちろん自分の経験に基づいていれば間違い無いとは思いますが、例えば中華麺をざる蕎麦のように使って「ざる中華」のような新料理にしてしまうのは、やはりニュアンスが違う。昔からある料理に原点回帰して、何ができるだろうかと今文献を読んだりしています。
あとは、昔出していた高菜そばの料理をもう一度現代らしく復活させようとしています。
高菜そばって、漬物の高菜を使った中国では定番の麺料理なんですが、一度やめてしまったんです。それが今、実は新しいんじゃないかと思っていて。豚肉と高菜漬けと筍を使ったシンプルな塩味の味付けなんですが、それが今の人の口に合うんじゃないかと思っています。
他にも、一度ボイルした麺を揚げて、またボイルし直してチキンラーメンみたいなパリパリした麺の上から、美味しいスープと蟹の卵をすり流して入れた麺料理など、いつの間にか時代とともに消えてしまった麺料理を、今の新しい定番としてもう一度創り出せないか、そういうことを考えています。
プロフィール
陳 龍誠 氏
1983年 大成観光株式会社(現(株)ホテルオークラ)入社
1991年 グアムホテルオークラ 桃花林 料理長
2001年 オークラ千葉ホテル 中国料理長
2004年 オークラ千葉ホテル 総料理長
2009年 ホテルオークラ東京 中国調理部担当部長
2011年 ホテルオークラ東京 中国調理総料理長(中国調理部部長)
受賞歴
2014年 平成26年度調理師関係功労者厚生労働大臣表彰 受賞
2017年 東京都優秀技能者(東京マイスター)知事賞 受賞
2021年 令和3年度 現代の名工 受賞
ホテルオークラ東京 桃花林
- 住所
- 東京都港区虎ノ門2丁目10−4 プレステージタワー 6階
- 電話
- 03-3505-6068
- 営業時間
- ランチ 11:30~14:30(土・日・祝日 15:30まで)
ディナー 17:30~21:30
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