USER’S VOICE慈華 itsuka
田村 亮介 料理長

慈華 itsuka 田村 亮介 料理長

料理への“考え方”に合う、理想の麺との出会い

素材を慈しみ、人を慈しみ、料理を慈しむ−−中国料理と文化へ敬意を払い、生産者へ日々感謝をしながら食材と向き合う中国料理店「慈華(いつか)」は、開業からわずか1年で「ミシュランガイド東京 2021」の1つ星を獲得した。名だたる中国料理店で修行を重ね、「慈華」のオーナーシェフとして腕をふるう田村亮介氏は、はしづめ製麺の麺を長く使用している。今回は“慈華とはしづめ製麺の歴史”を振り返りながら、田村シェフの仕事に込めた想いを伺った。

無知なのに尖っていた修行時代

―――料理人を目指されたきっかけは何でしょうか。

両親が中華料理店を営んでいたこともあり、幼少期から料理人は身近な仕事でした。ですが、学生時代は音楽に夢中で、その道で生きていきたいと本気で音楽のプロを目指していたので、料理学校には試しに入ってみようかなくらいの気持ちで入学したんですよ。卒業後の進路を考えていた時に、色々なご縁がつながり、母親の勧めがきっかけで横浜中華街の店に就職が決まりました。音楽の道に吹っ切れていない自分がいたのも事実でしたが、今思えば料理の道に導いてくれた母親には感謝しかないですね。

―――現在の料理との向き合い方に影響を受けた出来事は?

料理学校卒業後、横浜中華街の広東名菜「翠香園」と池袋の湖南菜「華湘」でそれぞれ2年ずつ修行しました。どちらも忙しい店で、当時は毎日必死に働いていました。繁盛店なので、とにかく数を作っていましたし、作れば作るほど自分はある程度出来ると勘違いしていました。今振り返ると、無知なのに尖っていましたね。

2店で4年間の修行時代の後、四川菜「麻布長江」へ移りました。「麻布長江」時代が一番長く、毎日新しい学びの連続で、それまでの自分が数をこなすだけの仕事をしていたのだと気付かされたんです。

「麻布長江」では、どうやって美味しいものを作るか、どう食材を選ぶのか−−確固たる理論や考えを持つことの大切さを教わりました。担々麺はこうだよねというような常識にとらわれず、なぜこの平麺を使うのか、なぜこのクリーミーさなのか、そこにどんな意図があるのか。既にレシピがあるものでも、それをベースに自分で考えを注ぎ込めば料理人としてのレベルが上がり、より美味しい料理を作ることができるのだと実感したのです。もちろん、その店のスタイルや味があり変えられない部分もありますが、大前提にある素材を選ぶときの“考え方”の重要性を教わり、料理との向き合い方が変わりました。今も僕の根底にはこの“考え方”があります。

はしづめ製麺との出会い

―――慈華のお料理では、はしづめ製麺のどんな麺を使っていますか。

コース料理の麺料理として「担々麺」の平麺と、「すまし」の細麺の2種類です。

はしづめ製麺さんの平麺に出会ったのは「麻布長江」時代です。理想の担々麺を作るため複数の製麺所の麺を試していた時期がありました。濃厚でクリーミーな胡麻に絡む平麺をずっと探していて、はしづめ製麺さんの工場にも行きました。最終的に、スープと調和する理想の麺に出会い、今でも使わせてもらっています。かれこれ25年くらい、麺ともはしづめ製麺さんとも長いお付き合いです。

もう一つの「すまし」の淡いスープに使用している細麺ですが、実はこの料理には最初、別の麺を使っていたんです。ある時、はしづめ製麺さんが来店された時に「うちの麺を使ったら、もっと美味しくなりますよ」と、言っていただきました。3種類ほど候補の麺を提案してくださり、試してみたら“確かにそうだな”と納得しました。結果として料理のクオリティーも上がり、本当に感謝しています。

―――器の色も鮮やかで素敵です。麺と器の相性もあるのでしょうか。

料理は味だけではなく、見た目の美しさも大切だと思っています。お店にある麺料理の器3種類のうち、一番気に入っているのはこの青磁の器です。緑系の優しく淡い色なので、麺にスープを張っただけでも引き立ちます。中国文化と麺は切っても切り離せないので、そういった意味でも歴史を重ねたビンテージの中国食器を使うことは多いです。

 

助け合い、高め合える関係

―――はしづめ製麺との25年間のお取引の中で印象に残っていることはありますか。

「慈華」は2019年の12月にオープンしましたが、コロナ禍でお店を開店できない期間が度々ありました。ようやく営業ができるようになってもコロナ前よりお客様も少なく、今まで通りの発注で全てを使い切ることができませんでした。とても困っていた時にはしづめ製麺さんにご相談したところ、少量で発注可能な別の麺をご提案いただきました。僕たちの状況を見て、臨機応変に対応してもらえた時は、本当に助かりました。

僕は、料理人は生産者や業者の方々に敬意を表すべきだと考えています。料理に必要な材料を作り、届けてくださっている皆様のおかげで、僕たちはレストランをやらせていただいている。スタッフにもいつも言ってますけれど、そこを本当に勘違いしてはいけない。日頃から僕たち料理人を支えてくださっている全ての皆さまへの感謝の気持ちが、常に根底にあります。

―――はしづめ製麺が経営するレストランについては、いかがでしょうか?

初めてお話を伺ったときはかなり驚きました。いわゆるラーメン屋ではなくてレストランですからね。橋爪専務のセンスと、代々の料理長の腕が素晴らしいです。「広尾はしづめ」のお店に何度か食事に行っています。逆にはしづめ製麺さんが「慈華」に食べに来てくれることもあります。お互いに食べに行って刺激をもらいあっていますね。料理業界はお互いに紹介しあったり横の繋がりも広いので、実ははしづめ製麺さんの麺を使用しているというお店はすごく多いと思います。

練り込み麺への関心と、新しいチャレンジ

―――今後の目標を教えてください

もう一店舗、カジュアルで気軽に入れるタイプの中国料理店はやってみたいです。「慈華」はコース料理メインで非日常を楽しむお店なので、駆け出しの料理人が担当するような一般的な中華料理ありません。若い料理人やスタッフのために、違うコンセプトのお店を出すのが目標ですね。

―――田村シェフ流のカジュアルな料理に期待している常連の方も多いと思います。これから作ってみたい麺料理はありますか?

はしづめ製麺さんは様々な麺のラインナップをお持ちで、その中でも『練りこみ麺』に興味があります。あとは、物販にもトライしてみたいですね。今までも出来る範囲の中でテイクアウトの対応はしてきましたが、「慈華の麺料理セット」のような新しいチャレンジをしてみたいです。

プロフィール

田村 亮介 氏

1977年 東京都出身。高校卒業後、調理専門学校へ。横浜中華街 広東名菜「翠香園」、池袋 湖南菜「華湘」を経て、四川菜「麻布長江」へ。
2005年 台湾の四川料理店・精進料理店へ研修。
2006年 麻布長江「香福筵」料理長に就任。
2009年 オーナーシェフになる。
2019年4月 麻布長江 香福筵 建物老朽化の為閉店
2019年12月 南青山「慈華 itsuka」開店
2020年12月 「ミシュランガイド東京 2021」一つ星店として掲載
2021年2月 「ゴ・エ・ミヨ 東京 2021」3トック獲得店として掲載
2021年12月 「ミシュランガイド東京 2022」一つ星店として掲載
その他、
・女子栄養短期大学中国料理・中村調理製菓専門学校 キッコーマン講習会等々の講師。
・農林水産業の6次産業化支援を行う【チーム・シェフ】メンバー
・豊かな海と食文化の守りかたを学び、考え、伝えるプロジェクト【Chefs for the Blue】メンバー
・イオン「トップバリュ プロのひと皿」中華監修

慈華 itsuka

ウェブサイト
https://www.itsuka8.com
住所
東京都港区南青山2-14-15 五十嵐ビル2F
電話
03-3796-7835
営業時間
火~日
ランチ  11:30~15:00(ラスト入店13:00)
ディナー 18:00~22:00(ラスト入店20:00)
最新情報は店舗ウェブサイトをご確認ください。
定休日
毎週月曜日・他不定休
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